竜王の歌姫
(あ……よかった、これで……)

瘴気は、歌姫の歌でしか浄化することができない。
ルーシーはこれまでに何度も瘴気を浄化してきたから、これできっとみんなが助かる。

そう安堵したのも束の間。何も起こらない。
歌声は響き続けているのに、蔓延する瘴気は、一向に消える気配がなかった。

(……どうして……!?)

それどころか、瘴気は濃くなっていくばかり。

侍女たちの中にはついに倒れ伏す者も現れた。
その身体の皮膚が、少しずつ鱗に変貌していく。
人形を保てなくなってきているのだ。

竜人は、一度に大量の瘴気に侵されたり、身体に蓄積された瘴気が許容量をオーバーすると
自我を失って“狂化“する。

「カノ、ン……」

息も絶え絶えな様子のニア。
苦しみ続けている侍女たち。

(このままじゃ、みんなが……)

声が出なくて、歌えない。
そんな自分を受け入れてくれた。優しくしてくれた。
これ以上、そんな人たちの苦しむ姿を見たくない。

(私にも、何かできることはないの?)

その時、耳をつんざくような絶叫が響き渡った。

(今の声は……ルーシー……!?)

尋常ではないような声。一体、何が起きているのか。
ルーシーの元に行けば、何かが分かるかもしれない。

(みんな、どうか無事でいて……!)

残していくニアたちのことを思いながら、カノンは全力で駆け出した。
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