竜王の歌姫
その日から、カノンの生活は一変する。

新たにカノンのために用意された部屋は、侍女の時とは比べ物にならない程に広々で豪華なもの。
着るものだって食べるものだって格段に良くなった。

専属侍女には、ニアがつくことになった。

カノンが歌姫だったと知って、ニアは驚いていたけれど。
「カノンのような人が歌姫で、うれしい」
そう言って微笑んでくれたのだった。

長年閉ざされていたのに酷使した影響で、若干の痛みが続く喉には、献身的な治療が施された。
同時に、発語発声の練習やこの国の歴史・教養など歌姫に必要な勉学に励む日々が続いた。


「カノン様。そろそろ次の授業の時間です」

すっかり畏まった様子のニアが、次の予定を知らせるためにカノンの元を訪れる。

「ニア……」

歌姫の待遇を受けるようになって、周りの態度も大きく変わった。
皆がカノンを特別な存在として敬い、態度を改めるようになった。
竜人侍女たちも、以前のように気安く話しかけてくることはない。

「……どうしましたか?」

何だかそれが、少し寂しくて。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか。

「……カノン。早く行こ」

2人だけの時、ニアはこうして前みたいに接してくれたりもする。
カノンは表情をパアッと明るくして立ち上がった。

「……うん!」
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