竜王の歌姫
そしてある時を境に、ルーシーの歌声は変化した。
その歌声は、どこまでも高く伸びて澄んでいた。

それはまるで、カノンの歌い方とよく似ていた。
カノンの再来を思わせるような歌声は、多くの心を惹きつけた。
しかし劇的とも言えるその変化を、訝しむ人だっていた。
けれど竜人ならいざしれず、ただの人間である自分たちが、歌声に細工なんてしようもないことだって分かっていた。

そのうち、みんながルーシーに一目置くようになっていった。
神官長は、かつてカノンに寄せていた期待を、ルーシーに寄せ始めた。
こうしてルーシーの神殿内での地位は、着々と積み上げられていく。

それに比例するように、カノンの待遇は悪くなっていった。

そもそも、聖なる乙女の認定を受けた者が歌声を失うなんて前代未聞。

美しい歌声を持つことがステータスであり、祈りを歌で捧げることがお役目である聖なる乙女たちの中には、
カノンの存在を内心よく思わない者も多かった。

そんな感情を煽動したのがルーシーだ。言葉や態度で巧みに周囲を煽り、カノンへの悪意を何倍にも膨らませた。
初めは、八つ当たりじみた小さなことから。段々と、直接悪意を吐き捨て、嘲笑うことを厭わなくなっていった。
それは神殿という閉鎖的な空間の中での、程のいいストレス解消の一つでもあったのだ。
それでもカノンの声が戻ることはなかった。

「呪われた歌声」耳元では、いつだってその言葉が繰り返されていた。
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