竜王の歌姫
「ギルバート様、そろそろ歌姫認定の儀の日取りを考えませんと……」

執務室の中。仕事モードの顔をしたミドルが、そうギルバートに告げる。

「……ああ……」

それは周囲からもせっつかれていることだった。

歌姫の認定とは、次代竜王となる者が歌姫候補を正式に“竜王の歌姫“と認め、宣言すること。
それから国民に向けて、歌姫誕生を公表することを以て認定の儀とする。

つまりギルバートがルーシーを「自分の歌姫である」と認め、宣言するということだ。
ギルバートは眉根を寄せる。

「躊躇うお気持ちは分かりますが、貴方が王となるためには必要なことなのです」

認定した歌姫と共に戴冠式を迎えることで、正式に代替わりが認められ、ギルバートは新たな竜王となることができる。
それは歌姫がいなければ、竜王にはなれないということと同義。
竜王の歌姫という存在は、それ程までにこの国と竜人たちにとって欠かせない存在だった。

それを十分に分かっていながらも、ギルバートは未だルーシーのことを歌姫だと思うことができなかった。

「なあミドル。本当に、歌姫が別にいる……ということはないのか?」

それは、夢の中の存在を未だ諦めきれないでいるということ。
ギルバートの問いに、ミドルは複雑な顔で首を横に振る。

「国中をくまなく捜索しましたが、条件に合う娘は他に現れませんでした。
それに歌姫……ルーシー様は竜王の即位前にも関わらず、強い浄化の力を持っています。
能力だけ見れば、歴代歌姫と比べても群を抜いている……彼女が歌姫であることは紛れもない事実かと……」

(分かっている。分かっているんだ……)

先代の力はどんどんと弱まっていく。
国の安定のためにも、一刻も早く新たな歌姫を迎え入れなければならないと。

けれど。本能が、痛いほどに叫んでいる。

(歌姫は、彼女(ルーシー)ではない)

ギルバートの耳に流れるのは、夢の中の少女の歌声。
それと同時に、カノンのことが頭に浮かぶ。


もし、もしも……カノンが歌姫であったなら。

そんな夢物語に、思いを馳せた。
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