竜王の歌姫
ラースの滞在に付き添ったフォーゲルの鳥人侍女が2人。
これがラースのお世話係についている侍女たちだ。
これまではそこに竜人侍女も1人いたのだが、諸事情により仕事を離れたらしい。
穴埋め的な形でカノンが加わるというのは、完全にラースの思いつきのようだ。

「カノン、もしイヤならそう言えばいい」

ニアは私を心配してそう言ってくれたし、事情を知った侍女長もまずカノンの意思を尊重してくれた。
カノンはこれまで掃除や洗濯ばかりをしてきて、高貴な方へ仕えた経験なんてないに等しい。
だから追加の侍女を募るなら、他に適任はいくらでもいるはずだ。

けれど、仮にもフォーゲルの王子であるラースが望んだことを無下にするのも憚れた。

それに、ラースとギルバートは幼少期から仲の良い友人関係なのだという。
ギルバートが心を許している相手なら、きっと悪い人ではないはずだ。

だからカノンは、ラースの望み通りにお世話係へと就任することになった。
とはいえそれは、ラースがフォーゲルへ帰国するまでの期間限定のことだ。

ラース付きの侍女は、2人ともカノンに優しかった。

「ラース様が無茶言ってごめんなさいね」
フォーゲルの侍女たちは、ラースの思いつきにより振り回されることに慣れているようだ。

「分からないことは私たちに何でも聞いて」
慣れない仕事に戸惑うカノンのことを、あたたかくサポートしてくれた。
< 82 / 146 >

この作品をシェア

pagetop