いつか、桜の季節に 出逢えたら

第20話 2月26日 閑話

絵梨花の最期の願いを知った今では、どうしても叶えてあげたいという気持ちが強くなった。

非公開ブログの内容と、最期の記憶。

お父さんとお母さんは八つ当たりに巻き込まれただけ。
だから、これまでのことを謝って、お礼を言おう。
本当は二人とも好だったのだから、私が絵梨花の代わりに、良好な人間関係を築けばいい。

ただ、その先に絵梨花の死がある。
仲良くなることで、悲しみが増したりはしないだろうか。

いや、関係が壊れていた時ですら、絵梨花が生き返ったらあんなに喜んでくれた。
あのまま死んでいたとしたら、悲しみだけでなく、後悔も残っていただろう。
だとすれば、やはり「絵梨花は二人のことが好きだった」と教えてあげた方が良い。


紫苑のことは、どうしよう。
好きだったことを伝えるべき?
でも、絵梨花は、妹として生きると決めていた。

もし両親への八つ当たりが、紫苑への片思いのせいだと知られたら、両親を追い詰めてしまわないか。
そんなことを言われても、紫苑も困ってしまうだろう。
ーーやはり、絵梨花のブログの通り、ただの妹のままでいよう。


それにしても。
記憶が戻ったら、実の両親のことまで思い出してしまった。

父は滅多に家に帰ってこない人だった。
それは絵梨花の父と同じだけれど、おそらく他の女の家に行っていたのだろう。
我が父ながら、最低な男だと思う。

その帰らない父を、毎日泣きながら待つ母。
そのくせ、私の成績にはとことん厳しかった。
私は、あの家に居場所なんてなかった。


また嫌なことを思い出してしまった。
正直、絵梨花が羨ましい。
血の繋がりなんて関係なく、大事にしてくれる両親がいたのに。
代わりに私が娘になりたかったよ。
あんなに優しい人たちを、悲しいままにはしておけない。

それに、一人っ子で寂しかった。
だから、一時的にでも、優しい兄ができて嬉しかった。


もし、私が未来に戻れなかったらーー
大学時代の友達に、最後に会っておきたかった。
ゲームで知り合った親友にも、一度でいいから会ってみたかったな。
それだけが、心残り。



コンコン

私の部屋のドアをノックするのは、兄。

「ちょっと今日、遅くね?」

考え事をしていたら、いつもの時間に遅れてしまった。

「はぁい。今行く」

携帯ゲーム機を手に取り、今日も兄の部屋で、ゲームと勉強に勤しむ。

絵梨花の最期の日まで、偽りの家族でいさせてね。
猫又がくれた、やり直しチャンス。
私は、後悔がないように生きたい。
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