いつか、桜の季節に 出逢えたら

第29話 3月17日 甘々と、真夜中モノローグ

私に残った時間は、あと一週間。
残った時間を全て、紫苑にあげると約束したから、学校以外はずっと一緒にいる。

本当は学校も休みたい。けれど、絵梨花として生きるなら、休むことはできない気がする。
両親に心配をかけたくないし、友達になった子たちにも、仲良くしてくれたお礼をしたいから。


「今日も一日、疲れたねぇ」

いつものように、紫苑の部屋でゴロゴロしている。


「……本当は大人なんだよね? いつも、そんなにゴロゴロしてるの?」

「社会に出るとね、いろいろあるんだよ? 学生時代にはありえなかった、この世の理不尽との闘いが。外でしっかりやるから、家でくらい、ゴロゴロしたいものなのよ」

というより、それを許してくれる人の前では、素の自分でいたいんです。

「……紫苑の前だけだから、いいでしょ」

「なんだもう、本当にかわいいな!」


「そんなことより、またゲームしよ」

「はいはい」

紫苑と二人、笑い合う。


私たちは、絶対に破ってはならない約束をした。
ーー今後、お互いの体には、触れないこと。

絵梨花の体である以上、本人の了承を得ずに、触れさせるわけにはいかないと思うから。

絵梨花は、紫苑に触れて欲しかったかもしれない。
でも、自分ではない女を好きな紫苑に触れてほしいとは思わないだろう。
これが、私の、絵梨花に対するけじめである。

絵梨花、ごめんね。
あなたの願いは、全部叶えてあげたかったけど。
紫苑の心だけは、私にちょうだい。

好きだと分かった途端に、触れられなくなった。
これが、あなたへの償いになるのかもしれない。
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