いつか、桜の季節に 出逢えたら
夜は、絵梨花の部屋に戻ろうとしたけれど、紫苑が「いてほしい」と言うので、従うことにしている。

紫苑が、ベッドは私に譲り自分は床で寝ると言うので、とても申し訳なく思う。
一切触れないとの約束で、同じベッドで寝てみることにした。

「さすがに、狭いね……」

隣に並ぶと、どこかが触れてしまいそうになる。
向かい合わせになると、吐息がかかって恥ずかしくなる。
近すぎて、緊張で眠れる気がしない。

「……これは、俺の方が無理……」

珍しく、紫苑が照れている。


「……触れたくなるので……」

いつもは平然としているけれど、普通に男の子なんだと思うと、私の方が恥ずかしくなった。


「……やっぱり、部屋に戻ろうか?」

「ダメ。それなら、俺が床で寝る」

紫苑は、床にクッションを置き、毛布にくるまって、ふて寝を始めた。


「……ねぇ、触れられないのに、なんで夜もずっと一緒にいようとするの?」

背中を向けて、ふて寝をしている紫苑に問う。


「あなたと同じ空間にいたいからですよ。あと、あなたのことを忘れたくないから。八年後の世界に戻ったら、見た目が違うんだよね? 話し方とか、笑い方とか、仕草とか、たくさん覚えていないと、俺が見つけられないでしょ……」

彼は、そう言って、眠りに落ちた。



ーー真夜中に目が覚めた。

眠るあなたの顔を見て、悲しくなっているの、知らないでしょう。
一緒にいれば、嬉しいし、楽しい。
でも、一緒にいればいるほどに、その先にある別れが悲しくて仕方がない。

どうして、こんなに好きになってしまったのだろうね。

あなたは、私のことを好きだって言う。
あなたは知らないだろうけど、きっと、私の方がずっと好きだよ。

そんなことを考えながら、もう触れることもできないあなたを、ただ見つめています。
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