いつか、桜の季節に 出逢えたら

第31話 3月24日 さよなら

今日は、三学期最後の日であり、絵梨花最期の日でもある。

父と母に心配をかけたくないから、学校は休まないと決めていたけど、今日だけは、特別。
紫苑と、最後の制服デートをすることにした。

私には、最後にどうしても行きたい場所があった。
初詣に、紫苑と一緒に参拝した神社。
猫又によると、私と絵梨花を結んでくれた神様がいらっしゃるという。

「なんで、ここ?」

「紫苑と初めて出かけた神社だよ? 思い出の場所」


手水舎で、口と手を清めていると、爽やかな風が吹き抜けた。
境内では、白い鳩がのんびりと歩き回っている。ここで飼われているのだろうか。

平日ということもあって、人は少ない。
この時間に制服姿で神社にいる学生なんて、通報されるんじゃないかと心配したけれど、神のご加護か、静かな時間を過ごさせていただいている。


「私をここに連れてきた奴(奴とは、にゃにごとにゃ!)のマブダチの神様みたいで、絵梨花と私を繋げてくれたらしいよ。だから、お礼参りというか、最後にご挨拶をしておきたくて」


「……そっか。じゃあ、俺も感謝しなくちゃな」

春風になびく紫苑の色素の薄い髪が、キラキラと輝いている。


「痛っ……何か目に入った」

風に乗って飛んできた塵が、入ったのだろうか。


「ちょっと見せて」

朝の光の中で、紫苑の瞳の淡い色を改めて見る。
この瞳に見つめられるのも、今日が最後なのだと思うと、胸が締めつけられる。

「大丈夫、取れたみたい」

いつの間にか、こぼれる涙が流してくれたのだろう。
目に入った塵のおかげで、泣いているのをごまかすことができたかもしれない。


私は、最後に大人として、この恋にけじめをつけなくてはならない。

「……紫苑、今日で私はいなくなります。もしかしたら、八年後に戻れなくて消えてしまうかもしれない。これからあなたには、たくさんの出逢いがあると思います。本当に好きな人ができたら、その人と幸せになってください。それでも、もし私と未来で出逢うことができたら……その時は、また仲良くしてくれたら嬉しいな」

精一杯の笑顔で、気持ちを伝える。

本当は、ずっと好きでいて欲しい。
私を、探してほしい。
ーーでも、あなたを束縛する権利は、私にはない。

紫苑は、困ったような表情で私を優しく見つめるだけで、返事はしてくれなかった。


二礼二拍手で、ご挨拶と、願い事。

「神様、私をここに連れてきて下さり、ありがとうございました。私は、絵梨花の願いを叶えてあげられたでしょうか。これから私は、元の世界に戻ります。どうか、無事に戻れますように」


「……そして、できましたら、また紫苑と出逢えますように」

神様、私は、お願い事しすぎでしょうか。
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