きみと、まるはだかの恋

プロローグ

 恩田川(おんだがわ)の川沿いの道は、春になると桜が咲き乱れて、お花見をするひとたちがわんさか訪れる。満開の時期もそうだけれど、花筏(はないかだ)が美しいのだと評判だった。だけど、秋の夕暮れ時の今は、歩いているひとは少ない。一応東京都なのに、ここは地方出身のひとが想像する“東京”とは程遠い。川も桜の木もいつだってここにあることには変わりないのに、桜の時期しか見てくれるひとがいないなんて、ちょっとかわいそうだ。

——なんて、好きなひとの隣を歩いている私は、自然の気持ちになって感傷的に浸っていなければ、つい緊張で呼吸が乱れてしまいそうになる。

「どうした波奈(はな)、さっきから黙りこくって」

 私の想いびと——城山昴(しろやますばる)が無邪気な瞳で私の顔を覗き込む。ち、近い。そんなに間近で見ないでって。ほら、心臓が暴れてるじゃん。心音、聞こえちゃいそうだよ——と、頭の中で、私の乙女心はいつも忙しなく荒れている。

「なんでもない! なんかこういうの……いいなって思って」

 同じ高校。同じ部活。男女で活動は別だけれど、共にバスケ部に所属する彼とは高校一年生の時に出会って、一年半を迎える。高校二年生の秋、色づいていく木々の横目に、私の心も淡く移り変わっていく。恋心に気づいたのは二年生の春。ちょうど、ここの桜が満開になった頃だった。
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