きみと、まるはだかの恋
『波奈って桜が似合うな』

 部のみんなで新歓を兼ねてお花見をしていた時だ。これまで男子部員たちと大口を開けて笑っていた昴が突如、私のほうを振り返って言った。

『え、似合う……?』

 新入生の女の子たちと楽しくお弁当を食べていた私は、不意に聞き捨てならないセリフを耳にして、昴のほうを凝視する。私と目が合った昴は照れくさそうに鼻の頭を掻きながら、だけどキリッとした眉でしっかりと私を見つめ返していた。
 他の部員もいる手前、彼の言葉の真意をその場で確かめることはできなかった。「なになに、どうしたの二人!?」と友達が愉しげに茶々を入れてきたのが恥ずかしくて、俯いてしまう。男子のほうも、「ひゅーひゅー!」といつのまにか囃し立てている。これにはさすがの昴も耳まで顔を赤くして、「お前らやめろ」と声を上げた。
 恥ずかしいなら、なんで今あんなことを——。
 そう彼に訊いてみたい。けれど、みんなの前でこれ以上昴を会話をすることも憚られて、ただ甘い気持ちだけが胸に溶けていくのを感じた。
 恩田川の表面にちらちらと落ちていく桜の花びらみたいに、私の胸にも降り積もっていく確かな恋心を、この時初めて自覚したのだ。
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