きみと、まるはだかの恋
「俺たちがここから、このカフェと星見里の発展の(いしずえ)をつくりましょう」

 職人さんの言葉に、滝川社長は「ああ……」と声を漏らす。

「……勝手に計画を無視してすまなかった。Wi-Fi設置工事は明日行う」

 滝川社長の言葉に、私は昴やみんなの顔を見回しながら、わっと歓声を上げた。

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 今日、初めて星見里への愛を、面と向かって誰かに自分の言葉で発信できた気がする。
 昴の家に初めて泊まった日、こんな田舎で何ができるのだろうといじけてしまったことがあった。都会で当たり前にできるはずのネット検索もSNS投稿も限られた場所でしかできなくて、あまりのストレスに昴に八つ当たりをして。だけど、東京での私だって、いろんなものに追われてストレスフルだったのだ。
 二拠点生活を始めてから、肩の力がうまく抜けるようになった。
 週末になれば星見里の自然の空気を存分に吸って英気を養うことができる。昴の星空ツアー解説を聞いて、遠く夜空に想いを馳せて。また来週も一週間頑張ろうと思えるようになった。
 そうだ。ここには、新鮮な空気と見るだけで癒される大自然、ここでしか味わえない作物、たくさんのひとの温もりがあるのだ。
 東京にだって、東京にしかないものがもちろんある。
 心にもやがかかって見えなくなっていた。仕事も、ファンの声も、全部私の大切な宝物だ。視界がクリアになって霧が晴れると、明日はまっすぐに前に突き進んでいけるような気がした。
 そう思わせてくれたのは星見里と——昴のおかげだ。

 昴が私の手にそっと触れる。職人たちや重村さんには見えないように握りしめた。その手の温もりはこの世でいちばん私を安心させてくれるものだった。

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