きみと、まるはだかの恋
「……で、私はどうしてまたここに来たんだっけ」

 あれから二週間が経った。
 日曜日の今日、高速バスに乗り込んで、私は再び星見里を訪れていた。しかも今回は『ベストツーリズム』さんからの依頼ではない。自分の意思で、この場所に舞い戻ってしまった。
 猛暑ばかりだった日々が過ぎ去り、三十度を下回る日が三日連続で続いて、なんだか秋めいた風が吹いていると感じていた最中だ。
 
「晴れてると全然違うなあ」

 バス停で降りて、見上げた晴天の空には雲ひとつない。よく言われているように、空が高く澄んでいるような気がする。雨の日のペトリコールの匂いもしないし、どこか哀愁を感じさせるような空気感に、心臓ごと掴まれた気分だ。

 私が再びこの場所にやってきた事の発端は、昨日、Xで私に会いたいという切実なメッセージを送ってきた男性と実際に会ったことだ。会ってみるとすっきりとしたメッセージから受ける印象とはちがい、どこか根暗そうなオーラを放っているひとだった。まあ、SNSでの出会いなんて九割はこんなもんだ。それでも、カフェで話しているうちに相手の誠実そうな性格に惹かれて、このままお持ち帰りされてもいいかな、なんて不埒なことまで考えていた。
 が、事件は帰り道に起こった。
 彼のほうが「もう少し一緒に」と言いかけた時だ。 
 カシャリ、とカメラのシャッター音がして、振り返った時にはもう遅かった。
 スマホを構えた女子高校生らしき三人組と目が合い、「あ、やば」と彼女たちが去っていくのをぼんやりと眺めた。
 どうしたものかと男性と道端で突っ立っていると、少ししてXに私たちが二人で並んでいるところの写真をアップされてしまった。
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