きみと、まるはだかの恋
 マイクロバスから降りると、中井さんが溌剌と手を振ってくれた。いつまでも元気な彼女を見ていると、なんだか学生時代の自分を見ているようだ。

“波奈って明るくてムードメーカーで青春映画の主人公って感じ”

 高校時代に仲が良かった友人に言われた言葉がフラッシュバックする。

「青春映画の主人公か……」

 そんなはずない。私が主人公なら、どうして今、見栄ばかり張って購入したタワーマンションの前でやりきれない気持ちになっているのだろう。
 雨が傘を打ちつける音を聞きながら、星見里ですれ違った昴の姿を思い出す。
 昴はあの場所で、どんなふうに生きてるのかな。
 楽しんでるのだろうか。それとも苦労だらけなんだろうか。
 分からない。知りたいと思うけれど、どうしたって彼とこれからの人生で交わることはないのだと悟ってしまう。
 住む世界が違うのだ。
 私と彼では、住んでいる場所も、環境も、何もかも違っている。
 きっと、彼はもう私と過ごした時代のことなんて忘れて新しい人間関係の中で頑張っているのだ。
 降り頻る雨の中で一人、どういうわけか襲ってくる切なさに胸が締め付けられた。

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