きみと、まるはだかの恋
 彼のほうは名残惜しそうに『ハナさん!』と私を呼んでいたが、私は振り返らずにダッシュで走った。
 たぶん、私が教えるまでもなく、彼もいずれあの投稿を目にするだろう。
 その時彼がどんな気持ちになるのかを想像するだけで吐き気が込み上げてきた。
 なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの……?
 何も悪いことなんてしてないないのに。
 ただ必死に毎日生きてるだけなのに。
 なんでこんな目に……。
 涙が目に浮かぶ。拭っても拭ってもあふれてくるのは、今まで死に物狂いで積み上げてきたものがあっけなく壊れてしまう音を聞いてしまったからだ。
 あとから冷静に考えると今回の件で私の信用が失われたわけではないはずなのに、この時の私には物事を俯瞰して考える力がなかった。
 ふらふらとした足取りで家に辿り着いた時には、スマホで明日発の星見里行の高速バスを検索して、予約までしていた。どうして星見里に行こうと思ったのかは、正直自分でも分からない。あの場所で昴に出会ったことが私の背中を押しているはずなのに、昴には会わないでおこうと考える自分もいて、矛盾だらけだ。

 そんな私の気分とは裏腹に、嫌味なほど抜けるような青が広がる空を仰ぐと、自然と喉が開いていくような心地がした。

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