きみと、まるはだかの恋
「都会じゃ見られないからな。この満天の星空は。俺も、初めて星見里の星を見たときにはそれはもう感動しちまって。しばらくぼーっと空を眺めてた」

 昴が初めて星見里の星を見た日のことを思い出している様子で両目をすっと細める。星見里に引っ越してきたは三年前だと言っていた。彼が圧倒的な自然の景色に魅入っている間、私は何をしていたんだろう。ちょうど前職の広告会社での仕事を辞めようか迷っていた頃だろうか。あのとき、日々迫り来るタスクを目の前にしていて、自分の外側の世界にこんなにも豊かな景色があるかもしれないなんて、想像さえしなかった。

「なんか……いいね。ここでの暮らしは正直あんまり想像できないけど。でも昴が楽しんで生活してるとこ見ると、ちょっとだけ羨ましいなって思っちゃう」

 昴には昴の苦労があることだって分かっている。いきなりこんな田舎に出てきて、彼が最初から周囲のひとたちやこの環境に馴染めたとは思えない。だけど……虚しさに心を支配されながら都会で一心不乱に働く苦労と何がちがうというんだろう。質は違えど同じように苦労するなら、ふと疲れた時に見上げる美しい星空があるほうがいいに決まっている。

「それならさ、波奈も暮らしてみれば?」

「……は?」

 予想だにしなかった方向から話が飛んできて、思わず間抜けな声がこぼれ出る。

「なーんてな。冗談冗談」

 ははっ、と鼻の下をこすりながら笑う昴の歯はびっくりするぐらい白い。
< 58 / 186 >

この作品をシェア

pagetop