きみと、まるはだかの恋
「昴……」

「ん?」

 私は、目の前で私と同じようにカレーのお皿を手にしている彼をまじまじと見つめる。
 十年前から変わらない爽やかな好青年ふうの昴。だけど、よく見たら腕や胸板は筋肉で厚く盛り上がっていて、十年の時の流れを感じさせる。農作業は肉体労働だから、筋肉も自然とつくのだろう。よく知っているはずの彼が、知らない誰かに思えて、胸がドクンと鳴った。

「ごめん、なんでもない。冷めないうちにいただきます」

「お、おう」

 温かみのある木の器に木のスプーンを入れて、カレーをすくう。
 口に入れると、スパイシーな香りとともにまろやかな風味が広がる。酸味があり、なんだろうと疑問に思ったが、カレールーにトマトが入っているようだった。

「トマトの風味が効いてて美味しい……」

 私の反応を見て昴がほっとした様子で表情を緩める。

「良かった。嫌いだったらどうしようと思ってから」

「めっちゃ好き。こんなカレーのレシピ、どこで覚えたの?」

「これは、近所のひとから教えてもらった。育てた野菜の素材の味を活かすカレーの作り方。結構うまいだろ?」

「うん。すごいね。そんなふうにひとから教わるなんて」

「田舎のネットワークはすごいぞ。というか、なんでも筒抜けすぎてもはやホラーかも」

「ふふ、ホラーか。でもそれだけ昴も星見里に溶け込んでるんだね」

「今でこそ、だな。最初は東京から来たってだけで色眼鏡で見られて大変だったんだぞ。近所のひとたちと関係を築くのにも、結局まる一年ぐらいかかっちまった」

「へえ……そうだったんだ」
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