きみと、まるはだかの恋
 高校時代、バスケと勉強しかできなかったはずの彼が、今は田舎で一人暮らしをして自分で作物をつくり、自炊までしているなんて。普段の私は忙しさにかまけてスーパーで出来合いのおかずを買うことが多いから、私よりもずっと充実した人間生活を送っている。

「はい、召し上がれ〜」

 ウェイトレスを気取っているのか、カレーの乗った木のお皿を、ダイニングテーブルの席についた私の前にトン、と差し出した。

「美味しそう……」

 作っているときからそうだったが、スパイシーなカレーの匂いが食欲をそそる。具材はひき肉、じゃがいも、にんじん、それからほうれん草。どの野菜も1cm角に切られているとこを見ると、キーマカレーらしい。

「私、野菜がごろごろしてるより細かく切られてるほうが好きなんだよね」

「だろ? 確か昔、波奈がそう言ってたような気がして」

「え、そんな話したことあったっけ?」

「あったよ。二人でファミレス行って俺がカレー注文したときに言ってた」

「そ、そうだったっけ……」

「ああ、間違いなく言った。自分で言っておいて忘れんなよ」

 昴とは土日の部活終わりによくファミレスに行っていた記憶がある。何度も行ったからこそ、そのうちの一回の会話の細かいところまで覚えていない。
 だけど昴は私が何気なく放った一言を、十年経った今も覚えていてくれたのか。

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