失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
ソフィア4
カーク・ダンフィルはソフィアの乳兄弟だ。エステルのお目付け役に抜擢されて以降は妹とともに行動することが増えたが、彼の母親であるダンフィル子爵夫人は、乳母の任を解かれた後も侍女としてソフィアに仕えてくれているため、その関係で今でも近しい幼馴染だ。
ソフィアの目が届かないエステルのお転婆ぶりは、いつもカークから報告される。
「最近は騎士団の修練所に行くのがエステル……様のお気に入りです」
「修練所? そんなところに行って何をして遊んでいるの?」
「騎士の方たちが剣を教えてくれるんです。遊んでいるというか、遊ばれているというか……本人は至って真剣ですけど」
どうやら何かの折に紛れ込んだ騎士団の修練所で模造の剣を貸してもらい、剣術の稽古に興味を持ったらしい。
「騎士たちに馬にも乗せてもらって、大喜びでしたよ。国王陛下に乗馬の許可を貰ってもっと練習するんだって張り切っていました」
「あの子ってば、女の子なのになんでまた……」
おっとりと呆れた声をあげれば、カークがふっと笑みを漏らした。
「エステル様は、騎士の忠誠に興味を持ったみたいです」
「騎士の忠誠って、生涯においてただひとりに剣を捧げる、あの儀式のこと?」
「はい。女王陛下となられたソフィア様に剣を捧げたいのだそうです。自分はあまり勉強が得意じゃないから、剣でソフィア様を守りたいと」
「私のため……」
カークの言葉通り、妹はあまり勉強が得意ではない。決して物覚えが悪いわけではなく、少々飽きっぽいのだ。ひとつのことを深掘りするより、広くたくさんのことを興味のある端から摘んでいく性質だ。
ソフィアは自分が王太女としてこの国を背負っていくことを重荷とは感じていない。けれど同じものを妹に背負わせたいかと言えば、否だ。
「そんなこと、あの子が気にする必要はないのに」
エステルにはエステルの役割がある。どちらが上とか下とか、そういうことではなく、本分が違うのだ。
姉のためにと思ってくれることは素直に嬉しいが、妹は妹が望むように生きてくれたらいい。それがソフィアの願いでもある。
今は与えられたばかりの新しい遊びに夢中になっているだけだろう。元来飽きっぽい性格だ。また違うものに興味を惹かれて、すぐに夢中になるはずと息を吐けば。
「エステル様は、たぶん本気だと思いますよ」
ソフィアの乳兄弟はそう言って苦笑した。否定するのも違う気がして、そのままにやり過ごす。
妹の一番近くで、彼女のことを一番よくわかっているはずの彼が予言した通り、エステルの騎士団通いは毎日の習慣になった。
ソフィアの目が届かないエステルのお転婆ぶりは、いつもカークから報告される。
「最近は騎士団の修練所に行くのがエステル……様のお気に入りです」
「修練所? そんなところに行って何をして遊んでいるの?」
「騎士の方たちが剣を教えてくれるんです。遊んでいるというか、遊ばれているというか……本人は至って真剣ですけど」
どうやら何かの折に紛れ込んだ騎士団の修練所で模造の剣を貸してもらい、剣術の稽古に興味を持ったらしい。
「騎士たちに馬にも乗せてもらって、大喜びでしたよ。国王陛下に乗馬の許可を貰ってもっと練習するんだって張り切っていました」
「あの子ってば、女の子なのになんでまた……」
おっとりと呆れた声をあげれば、カークがふっと笑みを漏らした。
「エステル様は、騎士の忠誠に興味を持ったみたいです」
「騎士の忠誠って、生涯においてただひとりに剣を捧げる、あの儀式のこと?」
「はい。女王陛下となられたソフィア様に剣を捧げたいのだそうです。自分はあまり勉強が得意じゃないから、剣でソフィア様を守りたいと」
「私のため……」
カークの言葉通り、妹はあまり勉強が得意ではない。決して物覚えが悪いわけではなく、少々飽きっぽいのだ。ひとつのことを深掘りするより、広くたくさんのことを興味のある端から摘んでいく性質だ。
ソフィアは自分が王太女としてこの国を背負っていくことを重荷とは感じていない。けれど同じものを妹に背負わせたいかと言えば、否だ。
「そんなこと、あの子が気にする必要はないのに」
エステルにはエステルの役割がある。どちらが上とか下とか、そういうことではなく、本分が違うのだ。
姉のためにと思ってくれることは素直に嬉しいが、妹は妹が望むように生きてくれたらいい。それがソフィアの願いでもある。
今は与えられたばかりの新しい遊びに夢中になっているだけだろう。元来飽きっぽい性格だ。また違うものに興味を惹かれて、すぐに夢中になるはずと息を吐けば。
「エステル様は、たぶん本気だと思いますよ」
ソフィアの乳兄弟はそう言って苦笑した。否定するのも違う気がして、そのままにやり過ごす。
妹の一番近くで、彼女のことを一番よくわかっているはずの彼が予言した通り、エステルの騎士団通いは毎日の習慣になった。