失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
ユリウス2
ユリウスはランバート伯爵家の次男として生まれた。
ランバート家は辺境に近い田舎に領地を構える貴族だ。伯爵家とはいえそれほど目立つ功績や特産があるわけでもなく、王国の貴族家の中では地味な存在だ。
ユリウスには三つ上の兄スチュアートがいたため、いつかは家を出て身を立てなければならない立場だった。初め彼は騎士を目指そうとしていた。家督を継ぐ長男が王立大学を目指しており、裕福とは言い難かった伯爵家で、次男のユリウスの学費まで工面することは難しかった。騎士学校であれば学費は無料であり、三年後には騎士見習いとして就職できる。貴族家の次男以下にはよくある選択肢のひとつだ。
彼自身もそんなありきたりなレールに乗ることを良いとも悪いとも思わず、淡々と流れに身を任せようとしていた矢先のこと。
勉学に励んでいた長男が病に倒れた。ユリウスが十三歳のときだ。
ランバート家では母親を同じ病で数年前に亡くしていた。遺伝する病気ではないため、こればかりは運が悪かったというよりほかない。兄の容体が思わしくない中、もしやのことも考えてユリウスの騎士学校入りは一旦見送られた。
幸い母が亡くなったときと違って、病に効果的な薬が開発されており、父伯爵は王都でその薬を買い付け、長兄に与え続けた。薬代を得るために金策に走る父に代わって、兄の看病はユリウスと二つ下の妹が担った。
そうして二年の月日が経ち、薬が効いて兄は病を克服したが、後遺症として後継が望めない身体になってしまった。
兄の代わりに王立大学を目指せと父に言われたのはそんなときだ。ユリウスは十五歳になっていた。将来の家督は兄ではなく自分に譲るつもりだと父は付け加えた。ランバート家が学費を工面できるのは一人分がせいぜい。父は兄でなくユリウスのためにその機会を使うことに決めた。
それを知った兄は気鬱の病を発症し、部屋に閉じこもったまま出てこなくなった。
ユリウスとしても、兄を押し除けてまで進学や家督の権利が欲しかったわけではない。多くの貴族家の子どもたちがそうであるように、次男以下の立場として、割と幼い頃から自立して生きていくことを普通のこととして受け止めていた。むしろこの人生の転換に戸惑ってもいた。
加えて後継から外された兄の心情を思うと、自分に与えられるものを素直に受け入れることなどできない。ユリウスは進学と家督の権利は兄のままにするべきだと父に訴えた。当初の予定通り兄が進学して伯爵位を継げばいい。後継はユリウスか妹の元に出来た子を兄の養子とすれば問題はないはずだ。自分に結婚の予定はまだないが、妹は隣領の子爵家の嫡男と幼い頃より仲が良く、婚約の話も上がっている。ランバート家の血を継いだ次代が生まれるのも、そう遠い未来のことではないだろう。自分もまた当初の予定通り騎士学校に入って騎士となれば、すべてが丸く収まる。
だが父は渋い顔のまま首を振った。
ランバート家は辺境に近い田舎に領地を構える貴族だ。伯爵家とはいえそれほど目立つ功績や特産があるわけでもなく、王国の貴族家の中では地味な存在だ。
ユリウスには三つ上の兄スチュアートがいたため、いつかは家を出て身を立てなければならない立場だった。初め彼は騎士を目指そうとしていた。家督を継ぐ長男が王立大学を目指しており、裕福とは言い難かった伯爵家で、次男のユリウスの学費まで工面することは難しかった。騎士学校であれば学費は無料であり、三年後には騎士見習いとして就職できる。貴族家の次男以下にはよくある選択肢のひとつだ。
彼自身もそんなありきたりなレールに乗ることを良いとも悪いとも思わず、淡々と流れに身を任せようとしていた矢先のこと。
勉学に励んでいた長男が病に倒れた。ユリウスが十三歳のときだ。
ランバート家では母親を同じ病で数年前に亡くしていた。遺伝する病気ではないため、こればかりは運が悪かったというよりほかない。兄の容体が思わしくない中、もしやのことも考えてユリウスの騎士学校入りは一旦見送られた。
幸い母が亡くなったときと違って、病に効果的な薬が開発されており、父伯爵は王都でその薬を買い付け、長兄に与え続けた。薬代を得るために金策に走る父に代わって、兄の看病はユリウスと二つ下の妹が担った。
そうして二年の月日が経ち、薬が効いて兄は病を克服したが、後遺症として後継が望めない身体になってしまった。
兄の代わりに王立大学を目指せと父に言われたのはそんなときだ。ユリウスは十五歳になっていた。将来の家督は兄ではなく自分に譲るつもりだと父は付け加えた。ランバート家が学費を工面できるのは一人分がせいぜい。父は兄でなくユリウスのためにその機会を使うことに決めた。
それを知った兄は気鬱の病を発症し、部屋に閉じこもったまま出てこなくなった。
ユリウスとしても、兄を押し除けてまで進学や家督の権利が欲しかったわけではない。多くの貴族家の子どもたちがそうであるように、次男以下の立場として、割と幼い頃から自立して生きていくことを普通のこととして受け止めていた。むしろこの人生の転換に戸惑ってもいた。
加えて後継から外された兄の心情を思うと、自分に与えられるものを素直に受け入れることなどできない。ユリウスは進学と家督の権利は兄のままにするべきだと父に訴えた。当初の予定通り兄が進学して伯爵位を継げばいい。後継はユリウスか妹の元に出来た子を兄の養子とすれば問題はないはずだ。自分に結婚の予定はまだないが、妹は隣領の子爵家の嫡男と幼い頃より仲が良く、婚約の話も上がっている。ランバート家の血を継いだ次代が生まれるのも、そう遠い未来のことではないだろう。自分もまた当初の予定通り騎士学校に入って騎士となれば、すべてが丸く収まる。
だが父は渋い顔のまま首を振った。