失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜

ユリウス10

 大学在学五年目に、ユリウスはソフィアと同窓となる機会に恵まれた。十三歳となったソフィアが最年少記録を更新して大学に入学してきたのだ。最短五年での卒業を目指していたユリウスだったが、この僥倖の前に自身の在学を延長しようかと考えたほどだ。

 だが未来の女王たるソフィアの警備体制は鉄壁で、学友となる者も厳しく制限された。一年生と高学年では被る授業もない。半年ほどあの手この手で接触を試みたが結果は芳しくなく、それならばさっさと就職して一日でも早く出世するのが手だと切り替えた。少なくとも後五年は在学することになるソフィアが卒業したとき、それなりの立場でありたい。

 当初の目標通り、卒業と一等官僚の試験に主席合格し、念願の宰相府に配属された。大学の専攻は政治学だったが、元々語学が得意だったのと、昔のソフィアを見習って学生時代に国の法律を頭に叩き込んでいたことなどが宰相の目に止まり、半年で秘書に抜擢された。だが秘書のレベルではまだ議会に連れて行ってさえもらえない。既に議会デビューを果たしていたソフィアの姿を見ることすら叶わず、日々が過ぎていく。

 伯爵家当主として社交もこなさねばならず、社交界にも顔を出すようになった。早い貴族の子女は十三歳ほどで社交界に出てくるものだが、ソフィア王女は学生であることを理由にデビュー自体を先送りしており、このような場には姿を現さなかった。なんだか肩透かしをくらった気分だ。

 だが社交界という場所は、政治以外の話題を拾うのに適していると知れたことは非常に有益だった。年頃になりつつあるソフィア王女の婚約者候補の情報を集めるのに、これほど確かな場はない。

 糸を張り巡らすかのような世界で見えてきたのは、ソフィアがいかに守られた存在であるかということだった。

(なるほど、余計な虫がつかぬよう、周囲の守りが徹底されていたのか)

 貴族の令嬢であれば概ね縁は早いうちに結ぶことが奨励される。相手が誰でもいいとは言えないが、ユリウスの妹のように釣り合いがとれるなら、自由恋愛も許されるだろう。だが王女となれば別だ。王族の婚姻は国事であり、政治的・外交的側面が切り離せない。ルヴァイン王国の二人の姫が相手を自らの好みで選ぶなど、そもそも許されるはずがなかった。とりわけ王太女ともなれば、さらに強い縛りが課されることになる。

 だからこそソフィアの周囲からは同世代の男子が徹底的に排除されていた。いつか政略結婚をすることになるとわかっていて、いらずらに夢を見させないようにという親心かと、年に一度開催される王宮舞踏会の席で、玉座に座る国王に拝謁しながら推察した。

(仕方のないことか)

 いつかソフィアに直に仕えられる存在になるのだと決めているユリウスは、せめて愛情を育めあえるような男が彼女のお相手となってほしいと願った。

 このときはその程度の心理的距離でいたのだ、まだ。

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