失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
カーク8
旅の疲れもあるだろうと別々に休んだ翌日。朝食の席に降りてきたエステルの格好を見たロータス老伯爵は目を剥いた。
「エステル様、その格好はいったい……」
「おはようございます、お義父様。私の服装が何か? カークとそう大差はないと思いますが」
前日に無事養子縁組の手続きを終えたカークと、その様子を隣で見ていたエステルは、ロータス伯爵のことを義父と呼ばせてもらう同意を得ていた。「英雄様と王女殿下に、ち、ち、義父などと、恐れ多い!」と感極まって心臓を押さえられたときにはどうしようかと思ったが、それ以上の騒動にはならず安堵した。
それはさておいて、エステルの格好である。昨晩はこちらに到着して初めての夕食の席であったため、伯爵もカークたちも礼装で出席した。その席で伯爵から足を痛めていることや、そのせいで正装が難しいことを説明された。自分たち夫婦に対してあまりに失礼だから、今後は別々に食事をらせてもらいたいと提案があったのを、エステルが「それなら我が家の食事は略装で可ということにしましょう。自分もドレスは着ません」と宣言したのだ。エステルに対してまだ遠慮がある伯爵は、ぎくしゃくと同意せざるを得なかったようだ。カークとしても、来て早々伯爵を追い出してしまうようで決まりが悪く、またいちいち着替えなくていいのは騎士生活が染み付いた自分にとっても楽であるため、素直に従った。
その、昨日の今日である。カークはシャツとベストにトラウザーズ、首元にはゆるくクラバットを巻いた。略式とはいえエステルはデイドレスだろうしと、彼女に合わせたつもりだった。
だがこちらの予想を激しく裏切って、エステルは男装姿で現れた。つまりカークとほぼ差がない。むしろクラバットがない分エステルの方が簡素だ。カークにはある意味見慣れた姿だが、ガウン姿の伯爵の顎が落ちているのは仕方ないことだろう。老齢の執事はかろうじて表情に出さず状況を見守っている。
「お義父様、どうかお許しください。これが私の普段着なんです。ね、そうでしょ、カーク」
「え、えぇ。エステルは城にいるときもこのような姿でいることが多くありました」
「お義父様もルヴァイン王国のお転婆姫の噂は聞かれたことがあるのではありません? 私は剣だって使えます。だからこの格好の方が落ち着くのです。お義父様が楽な格好で構わないとおっしゃってくださったから、とても助かりました」
笑顔でそう畳み掛けたエステルは、満面の笑みのまま席に着いた。
「さぁ、朝食を頂きましょう。今日はやることが盛りだくさんですもの」
「エステル様、その格好はいったい……」
「おはようございます、お義父様。私の服装が何か? カークとそう大差はないと思いますが」
前日に無事養子縁組の手続きを終えたカークと、その様子を隣で見ていたエステルは、ロータス伯爵のことを義父と呼ばせてもらう同意を得ていた。「英雄様と王女殿下に、ち、ち、義父などと、恐れ多い!」と感極まって心臓を押さえられたときにはどうしようかと思ったが、それ以上の騒動にはならず安堵した。
それはさておいて、エステルの格好である。昨晩はこちらに到着して初めての夕食の席であったため、伯爵もカークたちも礼装で出席した。その席で伯爵から足を痛めていることや、そのせいで正装が難しいことを説明された。自分たち夫婦に対してあまりに失礼だから、今後は別々に食事をらせてもらいたいと提案があったのを、エステルが「それなら我が家の食事は略装で可ということにしましょう。自分もドレスは着ません」と宣言したのだ。エステルに対してまだ遠慮がある伯爵は、ぎくしゃくと同意せざるを得なかったようだ。カークとしても、来て早々伯爵を追い出してしまうようで決まりが悪く、またいちいち着替えなくていいのは騎士生活が染み付いた自分にとっても楽であるため、素直に従った。
その、昨日の今日である。カークはシャツとベストにトラウザーズ、首元にはゆるくクラバットを巻いた。略式とはいえエステルはデイドレスだろうしと、彼女に合わせたつもりだった。
だがこちらの予想を激しく裏切って、エステルは男装姿で現れた。つまりカークとほぼ差がない。むしろクラバットがない分エステルの方が簡素だ。カークにはある意味見慣れた姿だが、ガウン姿の伯爵の顎が落ちているのは仕方ないことだろう。老齢の執事はかろうじて表情に出さず状況を見守っている。
「お義父様、どうかお許しください。これが私の普段着なんです。ね、そうでしょ、カーク」
「え、えぇ。エステルは城にいるときもこのような姿でいることが多くありました」
「お義父様もルヴァイン王国のお転婆姫の噂は聞かれたことがあるのではありません? 私は剣だって使えます。だからこの格好の方が落ち着くのです。お義父様が楽な格好で構わないとおっしゃってくださったから、とても助かりました」
笑顔でそう畳み掛けたエステルは、満面の笑みのまま席に着いた。
「さぁ、朝食を頂きましょう。今日はやることが盛りだくさんですもの」