失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
カーク15
「ねぇお姉ちゃん! まだ持ってきてもいい?」
「うちの近く、瓦礫だらけなんだ」
「もちろんよ! じゃんじゃん持ってきて!」
答えながら二人から木桶とバケツを受け取ると、食料を下ろして空になった馬車に乗り込み、そこに中身を捨てた。
「はい、これで空になったわ。続きをよろしくね」
駆け出していく彼らを見送り、背後でぽかんと立ち尽くす騎士たちを振り返った。
「ねぇ、デュカス隊長。集めた瓦礫をひとまず集積する場所を作ろうと思うの。どこか適当な場所がないか、住人たちに確認してきてくれない?」
「それは構いませんが、エステル様、いったい何をなさるおつもりで?」
「住民たちに働いてもらって、瓦礫を撤去するのよ。潰れた家屋の破片がなくなればそこに仮小屋を移築できるし、道路が広くなって馬車も通れるわ」
「確かにそうかもしれませんが……お荷物は小さな馬車に移してちゃんと運べます。王家の馬車を置いていくのがしのびないお気持ちはわかりますが……」
「馬車なんてどうでもいいわ。別にいらないもの。いえ、そんなこと言っては駄目ね。使い道はたくさんあるんだった。ひとまず集めた瓦礫の運搬用に使わせてもらいましょう」
「はい? この馬車で、瓦礫を運ぶと、そうおっしゃいました!?」
「そうよ。さすがはうちの馬車、大きくて頑丈でしょう? ありったけ瓦礫を積み込めるってものよ。馬もこんなに元気だしね」
「滅相もありません! 国王陛下から遣わされた馬車をそのように使うなど!」
「あら、街が綺麗になって、うちの馬車が通れるようになって、ついでに住民たちはなかなか手に入らない甘味やお酒が楽しめて、いいことづくしじゃない。それに、道路が復旧すれば真っ先に商人たちが出入りするようになるわ。だって日々の食糧は十分でも、衣料や嗜好品はまだまだ足りないのよ。彼らが商機を逃すはずないでしょう。人の往来が出てくれば仕事も増える。街って、こうやって復興していくものじゃないの?」
エステルは剣を持つことばかりに夢中で、勉学は疎かだった。だが一国の王女として将来は他国に嫁ぐような未来もあったため、最低限の学問は叩き込まれていた。基礎的な知識しかなくても、いや基礎的なものしか備えていないからこそ、シンプルに物事が見えていた。
言葉を失った隊長の後から、別の若い騎士が「あの……」と手を挙げた。
「どうせなら目分量じゃなくて重さで報酬を配分したらどうでしょう。瓦礫の撤去が進んでいない理由には、量もさることながら、重すぎて運べないというのもあると思うんです。けど、大人が協力して運べば、大きな瓦礫や丸太も運べます。酒類もあるっていうなら、男たちは動きそうです」
「それイイ! 採用!!」
エステルが即決すると同時に、別の騎士たちも声を上げ始めた。
「俺、手伝ってくれる人を探してきます!」
「自分も宣伝に行ってきます! ついでに撤去も!」
「重さで判断するなら秤がいるよな。おい、なんか棒といらない袋あるか? 俺作るよ」
「酒は絶対争奪戦になるから、特等扱いにすべきだな。おやつは子どもたちに回すとして……エステル様、目録を拝見してもいいですか?」
「おい、仮小屋の移築ってどれくらい手間がかかりそうだ? 移築するより、あまり崩れていない建物を整えて一旦避難してもらった方がいいんじゃないか? エステル様のお名前があれば、住民たちにも交渉しやすいと思うんだが」
「確か工具も積んでいたはずだよな。廃材はごろごろしてるし、簡単な大工作業なら出来そうだな」
次々と出てくる提案に、エステルは是の返事をどんどん出していく。気がつけば撤去作業の分担も出来て、子どもたちが次々と瓦礫を運びこんできた。エステルは彼らの口にラムネを放り込みながら「次はチョコだよ」と餌を振り撒くのも忘れない。
そんな彼女の姿を見ていたデュカス隊長が、突然涙を流し始めた。
「うちの近く、瓦礫だらけなんだ」
「もちろんよ! じゃんじゃん持ってきて!」
答えながら二人から木桶とバケツを受け取ると、食料を下ろして空になった馬車に乗り込み、そこに中身を捨てた。
「はい、これで空になったわ。続きをよろしくね」
駆け出していく彼らを見送り、背後でぽかんと立ち尽くす騎士たちを振り返った。
「ねぇ、デュカス隊長。集めた瓦礫をひとまず集積する場所を作ろうと思うの。どこか適当な場所がないか、住人たちに確認してきてくれない?」
「それは構いませんが、エステル様、いったい何をなさるおつもりで?」
「住民たちに働いてもらって、瓦礫を撤去するのよ。潰れた家屋の破片がなくなればそこに仮小屋を移築できるし、道路が広くなって馬車も通れるわ」
「確かにそうかもしれませんが……お荷物は小さな馬車に移してちゃんと運べます。王家の馬車を置いていくのがしのびないお気持ちはわかりますが……」
「馬車なんてどうでもいいわ。別にいらないもの。いえ、そんなこと言っては駄目ね。使い道はたくさんあるんだった。ひとまず集めた瓦礫の運搬用に使わせてもらいましょう」
「はい? この馬車で、瓦礫を運ぶと、そうおっしゃいました!?」
「そうよ。さすがはうちの馬車、大きくて頑丈でしょう? ありったけ瓦礫を積み込めるってものよ。馬もこんなに元気だしね」
「滅相もありません! 国王陛下から遣わされた馬車をそのように使うなど!」
「あら、街が綺麗になって、うちの馬車が通れるようになって、ついでに住民たちはなかなか手に入らない甘味やお酒が楽しめて、いいことづくしじゃない。それに、道路が復旧すれば真っ先に商人たちが出入りするようになるわ。だって日々の食糧は十分でも、衣料や嗜好品はまだまだ足りないのよ。彼らが商機を逃すはずないでしょう。人の往来が出てくれば仕事も増える。街って、こうやって復興していくものじゃないの?」
エステルは剣を持つことばかりに夢中で、勉学は疎かだった。だが一国の王女として将来は他国に嫁ぐような未来もあったため、最低限の学問は叩き込まれていた。基礎的な知識しかなくても、いや基礎的なものしか備えていないからこそ、シンプルに物事が見えていた。
言葉を失った隊長の後から、別の若い騎士が「あの……」と手を挙げた。
「どうせなら目分量じゃなくて重さで報酬を配分したらどうでしょう。瓦礫の撤去が進んでいない理由には、量もさることながら、重すぎて運べないというのもあると思うんです。けど、大人が協力して運べば、大きな瓦礫や丸太も運べます。酒類もあるっていうなら、男たちは動きそうです」
「それイイ! 採用!!」
エステルが即決すると同時に、別の騎士たちも声を上げ始めた。
「俺、手伝ってくれる人を探してきます!」
「自分も宣伝に行ってきます! ついでに撤去も!」
「重さで判断するなら秤がいるよな。おい、なんか棒といらない袋あるか? 俺作るよ」
「酒は絶対争奪戦になるから、特等扱いにすべきだな。おやつは子どもたちに回すとして……エステル様、目録を拝見してもいいですか?」
「おい、仮小屋の移築ってどれくらい手間がかかりそうだ? 移築するより、あまり崩れていない建物を整えて一旦避難してもらった方がいいんじゃないか? エステル様のお名前があれば、住民たちにも交渉しやすいと思うんだが」
「確か工具も積んでいたはずだよな。廃材はごろごろしてるし、簡単な大工作業なら出来そうだな」
次々と出てくる提案に、エステルは是の返事をどんどん出していく。気がつけば撤去作業の分担も出来て、子どもたちが次々と瓦礫を運びこんできた。エステルは彼らの口にラムネを放り込みながら「次はチョコだよ」と餌を振り撒くのも忘れない。
そんな彼女の姿を見ていたデュカス隊長が、突然涙を流し始めた。