「雨の交差点で、君をもう一度」

第十六章「雨上がりの選択」

 週末の朝、窓を打っていた雨は、昼近くにはすっかり上がっていた。
 空気は少し湿っているけれど、柔らかな陽の光が差し込み、カーテン越しに部屋の色を淡くしている。
 ——今日、答えを出す。
 そう心の中で繰り返すたび、胸の奥が静かにざわめいた。

 机の上には、二つの封筒が並んでいる。
 一つは七年前、神宮寺に渡せなかった私の手紙。
 もう一つは、奏多が私の誕生日にくれた手紙。
 どちらも開くまでもなく、中身は知っている。言葉は違っても、その奥に流れる想いは同じ——私への気持ちだ。



 午後三時。
 神宮寺との待ち合わせ場所である、駅前のガラス張りのカフェに向かう。
 週末の街は人が多く、ガラス越しに店内を覗くと、彼は既に席に座っていた。
 ネイビーのジャケット姿、カップを両手で包みながら外を眺めている。
 その横顔に、七年前の卒業式の日の面影が重なった。

「遅くなってすみません」
「いや、俺が早く来すぎただけだ」
 向かい合って座ると、しばらくは他愛ない話を交わした。
 やがて彼は、視線を真っ直ぐに向けてきた。
「……答えを聞かせてほしい」

 胸の奥で何度も繰り返した言葉を、ゆっくりと吐き出す。
「……私も、遥斗が好きです」
 彼の表情が、静かにほどけた。
 その安堵に似た笑みに、七年間の重さが少しずつ溶けていくのを感じる。
「やっと聞けたな」
「私も……やっと言えました」



 店を出ると、雨上がりのアスファルトが夕陽を反射していた。
 駅までの道を並んで歩く途中、神宮寺が言った。
「これからも、仕事では厳しくするぞ」
「わかってます」
「でも——プライベートでは遠慮しない。いいか」
 頬が熱くなり、私は小さく頷いた。



 夜、自宅に戻るとスマホが震えた。
 画面には「奏多」の名前。
 通話に出ると、少しだけ掠れた声が耳に届いた。
「……今日、答えを出したんだな」
「……うん」
「聞かなくてもわかる。……幸せになれよ」
 短くそう告げて、彼は通話を切った。
 その潔さに、胸の奥が痛んだ。



 机の上の奏多の手紙をそっと引き出しの奥にしまう。
 神宮寺への想いを選んだ今も、奏多がくれた時間と優しさが消えるわけではない。
 それもまた、私の大切な七年間の一部だ。

 窓の外には、雨上がりの夜空が広がっていた。
 雲の切れ間から覗く星が、静かに瞬いている。
 これからの時間を、私はもう“あとで”にはしない。
 そう決めた夜だった。
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