英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
「失礼いたしました。もしよろしければ、テーブルのほうでお茶かなにか……」
「いや。茶をするには、遅い時間だ」
「そう、ですよね……」

 あっさりと振られてしまい、語尾が萎んでしまう。すると、

「……足を怪我しているようだが、痛むのか?」
「あ……たいした傷ではありません。少し靴が合わなかったようで」
「そうか。明日、ロキに薬箱を届けさせよう」

 耳触りのいい低音でそう告げて、彼は今度こそ振り返らずに、猫とともに部屋から出ていった。もちろん寝室の内扉ではなく、正規の扉を通ってだ。

(もう少し、お話していたかったわ……)

 猫のこと。庭で見た女性のこと。聞きたいことはたくさんあったのに。

 どこか温かい、弾むような気分で、彼の消えた扉をしばらく見つめていた。
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