英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 ルシウス様の胸に寄りかかる体勢になっていたが、もはや体重をかけることすら申し訳ない。そっと身を起こして離れようとすると、かえって強く抱き寄せられた。

 腕力の差を感じる所作は、今は心臓に悪い。びくりと肩を震わせると、

「――どうした。どこか痛むのか?」

 力を緩めたルシウス様が、真剣な目をして覗き込んでくる。

「だ、大丈夫です……。すみません、ご心配をおかけして」

 とんでもなく顔の距離が近くなり、ドギマギしてしまう。少し頭を前に傾けたら、鼻と鼻が触れてしまいそうだ。
 男らしくて魅力的な唇も、すぐ目の前にある。思わず『このままキス、できたら……』などと、あらぬことを考えてしまい、顔を赤らめた。

 そのとき、馬車がガタンと大きな音を立てて、はっと我に返る。

(わたしったら、なにを考えているのかしら……)

 未然に防いでもらったとはいえ、男に襲われたばかりの身だ。
 全身が土埃にまみれ、しかも男の手垢までついている。好きな人の接吻を求めている場合ではない。
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