英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 こういうとき、近くにいる紳士が手を伸ばして支えてくれる――なんて都合のいいことは起こらずに、そのまま順当に転んで頭から落下していた。ゴツン、と鈍い音が深夜の寝室に虚しく響く。

「いったぁ……」

 厚い絨毯が敷かれているとはいえ、それなりに衝撃はある。ベッドの下にひっくり返ったまま起きられずにいると、ふいに遠慮がちな声が降ってきた。

「すまない。少し驚いていて……手を貸すのが遅れた」

 逞しい腕が背中に差し込まれ、勢いをつけてぐいっと抱き起される。

(なんですか、もう。今さら……)

 恥ずかしいし痛いしで、目頭が熱い。抵抗する気力も起きずに力なく身を任せていると、すっぽりと抱えられた腕の中で、ぬくぬくとした体温が伝わってきた。
< 56 / 398 >

この作品をシェア

pagetop