英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 前を歩く長身の美丈夫の正体は、すぐにわかった。黒髪で存在感のある男性といえば、ルシウス様しか思い当たらない。

(旦那様……。隣にいる人は誰かしら?)

 遠目にも美人だとわかる、年頃の女性だ。輝くような白い肌に、赤みがかった茶系色の瞳。流れる黒髪は艶やかで、墨で描いた美人画のよう。ボルドー色のドレスはとても華やかで、高貴な身分の方だと推測できた。

 女性は、ルシウス様の傍らにぴたりと寄り添い、軽く曲げられた彼の肘に己の腕を絡ませている。ルシウス様がペースを合わせているので、女性は歩きやすそうだ。あれがエスコートという所作なのだろうと、日本では馴染みのなかった慣習に思いを馳せる。

(まさに紳士と淑女って感じね……)

 絵になる光景に、思わず見惚れてしまった。

 大柄で逞しい男性が、小柄で華奢な女性を気にかけ思いやる姿は、やはりいいものだ。自分にもいつか、あんなふうに大切にしてくれる人が現れたらいいな、なんて――。
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