英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 銀幕スターのように輝いて見える高貴な方々の逢瀬は、当人たちの気が済むまで続くのだろう。そんなものをいつまでも眺めているほど物好きじゃない。

 メイドたちの足音が遠のき完全に聞こえなくなってから、重くなった足でバルコニーをあとにした。


 上の空で歩いていると、いつの間にか無骨な砦のような場所に立ち入っていた。はたと足を止め、途方に暮れる。
 隠密で動いたわけでもないのに深みにはまったわけは、遭遇した屋敷の者たちが揃ってわたしを敬遠し、道案内をしてくれなかったせいにほかならない。

 屋根のない石の壁に囲まれた円形の広場には、剣の打ち込みをするような藁人形や、弓の的、トレーニング用と思われる道具が多数設置されている。きっとルシウス様が部下の訓練等に使用する場所だと思うが、現在は人の姿はなくがらんとしている。

 ひどく心細くなり、すぐにも自分の部屋に戻りたくなった。今、誰かと顔を合わせれば、なぜここに立ち入ったのかと責められることになるだろう。
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