英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 生き物を部屋に入れても平気だろうか。注意されるとしたらルシウス様からだろうけど、わたしとは関わりたくないだろうし、気づかれたところで問題はないかもしれない。

 元どおりに窓扉を閉めてから、猫の姿を目で追った。うろうろと部屋中を歩き回るのを見ているだけでも飽きないのだが、あちらは纏わりつく視線が気になったのか、小さな頭をわたしのほうに向け、とことこと近づいてきた。

 ビロードのように滑らかでつやつやとした黒い毛並み。美しい金色の瞳をしていて、耳は猫にしては丸くて厚みを帯び、尻尾はストレートに伸びている。性別は雄のようだ。

「綺麗な子……」

 そう呟くと、猫は返事をするかのように「みゃ」と鳴いた。お髭がピンと伸びて、得意げな顔をしているように見える。

 釣られて表情を綻ばせ、なおも様子を見ていると、彼はワゴンを寄せたテーブルの下へと向かった。
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