行き倒れ騎士を助けた伯爵令嬢は婚約者と未来の夫に挟まれる
フレデリックは聞いたこともないドスの効いた低い声でフレンを睨みつける。
「フレデリック、俺を殴ってくれ」
「フレン様?!」
フレンの突然の言葉にアリシアが驚くと、フレデリックは真顔でフレンを見つめて、拳を握りしめ、フレンを思い切り殴った。
「いってぇ……」
殴られたフレンは倒れはしなかったものの、口の端が切れて血が滲んでいる。
「フレン様!」
「いいんだ、これでいい。はー、ようやく頭が冷えた。悪いな」
そう言ってフレンは口の端を手で拭った。別室で待機していた店員も、大きな音を聞いて何事かと駆けつけてくる。それにフレンが対応していると、フレデリックが痛そうに拳をさする。
「フレデリック様……」
「怖い思いをさせてごめん。でも、ああしないと気が済まなかった」
普段の優しい雰囲気は全く消え、見たこともないほどの恐ろしさにアリシアは一瞬心臓が凍りつくようだ。
(私の知らないフレデリック様……)
純粋に怖い、と思った。でも、この怖さはアリシアを思って現れた怖さなのだと思うと、ただ怖がるだけなのは何か違うと思える。そっと、アリシアは拳をさするフレデリックの手に触れる。その手は驚くほど冷え切っていた。
(冷たい手……いつも私の手を握る時はあんなに暖かいのに)
まるでフレデリックの心まで冷え切っているのではないかと心配になる程だ。
(早く、いつもの暖かいフレデリック様に戻りますように)
そう祈りながら、アリシアはフレデリックの手を握りしめた。そんなアリシアを見てフレンは両目を見開く。
「アリシア?」
「屋敷へ帰りましょう。帰って、暖かい紅茶でも飲んでのんびりしましょう」
ね?と優しく微笑むと、フレデリックは眉を下げて静かに微笑んだ。
◇
「当分、アリシアには近寄るな」
屋敷に戻ると、フレデリックはフレンにそう告げた。アリシアがフレンを見ると、フレンは一瞬アリシアを見て、すぐに目をそらす。そして静かに頷いた。
「ああ、わかった」
「フレン様……」
「アリシアもその方がいいだろ。俺もその方がいいと思う。フレデリックが良いと言うまでアリシアには近寄らないよ」
「フレデリック、俺を殴ってくれ」
「フレン様?!」
フレンの突然の言葉にアリシアが驚くと、フレデリックは真顔でフレンを見つめて、拳を握りしめ、フレンを思い切り殴った。
「いってぇ……」
殴られたフレンは倒れはしなかったものの、口の端が切れて血が滲んでいる。
「フレン様!」
「いいんだ、これでいい。はー、ようやく頭が冷えた。悪いな」
そう言ってフレンは口の端を手で拭った。別室で待機していた店員も、大きな音を聞いて何事かと駆けつけてくる。それにフレンが対応していると、フレデリックが痛そうに拳をさする。
「フレデリック様……」
「怖い思いをさせてごめん。でも、ああしないと気が済まなかった」
普段の優しい雰囲気は全く消え、見たこともないほどの恐ろしさにアリシアは一瞬心臓が凍りつくようだ。
(私の知らないフレデリック様……)
純粋に怖い、と思った。でも、この怖さはアリシアを思って現れた怖さなのだと思うと、ただ怖がるだけなのは何か違うと思える。そっと、アリシアは拳をさするフレデリックの手に触れる。その手は驚くほど冷え切っていた。
(冷たい手……いつも私の手を握る時はあんなに暖かいのに)
まるでフレデリックの心まで冷え切っているのではないかと心配になる程だ。
(早く、いつもの暖かいフレデリック様に戻りますように)
そう祈りながら、アリシアはフレデリックの手を握りしめた。そんなアリシアを見てフレンは両目を見開く。
「アリシア?」
「屋敷へ帰りましょう。帰って、暖かい紅茶でも飲んでのんびりしましょう」
ね?と優しく微笑むと、フレデリックは眉を下げて静かに微笑んだ。
◇
「当分、アリシアには近寄るな」
屋敷に戻ると、フレデリックはフレンにそう告げた。アリシアがフレンを見ると、フレンは一瞬アリシアを見て、すぐに目をそらす。そして静かに頷いた。
「ああ、わかった」
「フレン様……」
「アリシアもその方がいいだろ。俺もその方がいいと思う。フレデリックが良いと言うまでアリシアには近寄らないよ」