明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
その愚かしさに気づくほど、頬が熱くなる。

――このままあの人に会わず、すれ違ってしまうのだろうか。

反物の並ぶ店内に佇みながら、私は不安に心を支配されていった。

赤い着物の仕立て上がりを告げられても、胸の奥は少しも晴れなかった。

「もう少し、待ってみます?」

女将さんは気を遣うように、柔らかく提案してくれた。

「いいえ。ご迷惑でしょうから。」

そう答えるのが精一杯だった。

本当は、もう少しでもここにいたかった。

けれど、女将さんの厚意に甘えれば、自分の気持ちが露わになってしまう気がして。

私は立ち上がり、控えていた使用人と共に店を後にした。

暖簾をくぐった瞬間、心がすうっと冷える。

街のざわめきも人々の声も耳に入らず、ただ胸の奥だけが重く沈んでいた。

――桐島中尉。

やはり、もう会えないのだろうか。
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