明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「こちらなんかはいかがですか?」

女将が反物を広げながら、ちらりと私を見た。

その視線の先に続いて、奥へ目をやる。

次の瞬間、女将の表情が驚きに変わった。

店の奥から、軍服姿の桐島中尉が現れたのだ。

胸が大きく跳ね、思わず視線を逸らす。

――どうしよう。

この前は会えなかったのに、どんな顔をして声をかければいいのだろう。

「また会えますね」と言ってくださったのに。

申し訳なさと気まずさが入り混じり、視線を上げられなかった。

けれど、どうしても気になってしまう。

ちらりと横目で見たその姿は、やはり精悍で、堂々としていて。

軍服がこれほど似合う人は、きっと他にはいない。

息を詰めたまま、私はただ黙って反物を撫でるふりをした。

心臓の鼓動がうるさいくらいに響き、落ち着かない。

――どうして、こんなに目を逸らしたくなるのに、同時に見ずにはいられないのだろう。
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