明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「どうしたの? 雪乃?」

隣にいた母が、私の様子に気づいて声をかけてくる。

「い、いえ……」

慌てて首を振った。まさか、この前お会いした軍人さんがそこにいるだなんて――とても言えない。

胸が熱くなり、頬まで赤くなっているのが自分でも分かる。

そのとき、女将さんがわざとらしく咳払いをした。

「……こほんっ。」

えっ……?

まさか、桐島中尉に私の存在を気づかせようとしているのでは――。

私は思わず女将さんを見やり、必死に首を横に振った。

お願いです、やめてください。恥ずかしくて、どうにかなってしまいます。

けれど、女将さんは小さく口元を緩めただけで、何も言わない。

その仕草が意味深で、余計に心臓がうるさく鳴り響いた。

私は視線を落とし、手元の反物を握りしめる。

桐島中尉に気づかれるのが怖いのに――本当は、気づいてほしくてたまらない。
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