明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「すみません。」

暖簾をくぐって声をかけた瞬間、視線が止まった。

女将さんの隣に、見慣れた軍服姿があったのだ。

「あっ……」

思わず声が漏れる。

桐島中尉はこちらに気づくと、穏やかな微笑みを浮かべて近づいてきた。

「こんにちは。」

「……こんにちは。桐島中尉。」

胸が高鳴り、返事が震える。

その瞬間、父の言葉を思い出した。

“きちんと礼を伝えなければならん”

勇気を振り絞って口を開く。

「この前は……軍服を貸していただいて、ありがとうございました。」

桐島中尉は少し驚いたように目を細め、そして静かに首を振った。

「いえ、あれは私が勝手にしただけですから。」

丁寧な声音に、胸がじんわり温かくなる。

前回伝えられなかった思いを言えたことで、肩の荷が下りた気がした。

けれど同時に、彼との距離がまた一歩近づいたような気がして――頬が熱くなるのを隠せなかった。
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