明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
そして桐島中尉は、ふと私に視線を向けた。

「雪乃さんも、この呉服屋にはよくいらっしゃるんですか。」

いきなり名を呼ばれて、胸が跳ねる。

「い、いえ……今日が初めてでして。」

照れ隠しのように早口になってしまう。

「そうですか。ここは見立ても間違いありませんからね。」

穏やかな笑みを浮かべながら、桐島中尉は私を見下ろした。

「はい。先ほども、着物を見立てていただきました。」

視線の先には、赤い布。

父が「見合い用に」と選んだものだと分かっている。

――けれど。

こうして隣に並ぶ桐島中尉は、あまりにも遠い存在に思えた。

軍服を纏うその姿と、私の人生に定められた未来。

交わるはずのない二つが、どうして今ここで重なったのだろう。

胸が熱くなるのに、切なくもなる。

この気持ちの名を、私はまだ知らなかった。
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