この恋を運命にするために
「ヒック……信士さん、ちゃんと連絡しないとダメっすよぉ〜」
「おい、栗田! 飲みすぎだぞ。信士、俺はタクシー拾って栗田を送り届けるから」
漆原さんは酔っ払った栗田を支えている。
「大丈夫なんですか?」
「方向同じだから俺もそのままタクシーで帰るよ。お前は?」
「迎えが来るので」
「いいなぁ、坊っちゃんは。じゃあまた明日な」
「お疲れ様でした」
居酒屋を出て漆原さんたちと別れて数分後、迎えの車がやって来た。
満咲家のお抱え運転手だ。
車に乗り込み、改めてメッセージ画面を開く。
蘭ちゃんに連絡しておくか、こんな深夜に送ったら迷惑なだけだろうか。
寝ているのだとしたら確認するのは早くても朝だろうし、送るだけ送ってもいいかと指を動かす。
「……ん?」
赤信号で止まった時、ふと窓の外を見ると黒髪ショートの女性の後ろ姿が見えた。
まさかとは思ったが、チラリと見えた横顔は蘭ちゃんだった。
「蘭ちゃん……?」
視力には自信があるので間違いなく蘭ちゃんだ。
何故こんな遅くに?
身を乗り出してよく見ると、蘭ちゃんの隣には男性らしき後ろ姿が見える。
何やら親しそうに話しており、彼女は男性の背中に手を置いていた。
「――っ」
……なんだ、もう別の男がいるんじゃないか。
どうやら彼女はこの数日で現実を見たようだ。
俺みたいな男との結婚は現実的ではないと気づいたのかもしれない。
俺自身がそれを望んでいたはずなのに、何故だろう。
俺に向けられた彼女の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
胸の奥がジリジリと焦がすようなこの思いは、一体何なのだろうか――。