出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました
四十五話〜検挙〜
あれからセドリックはかなり忙しくしている。
例の子供達を追跡し孤児院を特定した結果、数箇所の孤児院がアジトとして使われている事が判明した。
購入者を装い人を潜入させ例の飴を入手し調べた結果、やはり飴からは薬物が検出された。
エヴェリーナの見立てでは飴以外の本命があると考えていたが、馴染みではないと購入は出来ないらしくそちらの確認は取れていない。
その後、各孤児院へ寄付金を出している貴族達を調べるとその数はかなり多かったそうだ。故に大規模な捕物となる。失敗は許されない為、入念な準備が行われていた。
そして今日、一斉検挙が行われる。
少し気にはなるが、ここから先はエヴェリーナが首を突っ込む領域ではない。
無事成功する事を願うばかりだ。
この半月あまり、最低限の仕事のみをこなしていたので色々とやりたい仕事が山積みだ。
ただ基本的に残業はミラから禁止されているので、毎日少しずつやっていく他はない。
エヴェリーナは、朝の支度を整えるといつも以上に気合いを入れ部屋を出た。
「子供達はそれぞれの別の孤児院へ移る事になり、今回の事件に関与した孤児院は全て取り潰される事になった。それにしても驚いたよ。まさか隠れて飴を食べていた子供がいたなんてね。中毒になっていたから、暫くは治療が必要だろう」
その夜、帰宅したセドリックから事件に関しての報告をされた。
先に結果だけを言ってしまえば、成功したといっていいだろう。
以前から目を付けていた貴族も捕縛し、これから事情聴取が行われ裁判となり処罰が決まる。
ただ有力貴族の子息や令嬢達は恐らく聴取の段階で何らかの取り引きにより減刑または罪そのものが揉み消されると予想される。理不尽で不平等ではあるがこれが現実だ。但しそれには莫大な資産を差し出す必要があり、またこれまで通り権力を維持するのは厳しく最悪の場合、没落する事も考えられる。
幾ら有力貴族といえ、所詮は一貴族に過ぎない。揉み消した所で噂は必ずどこかから洩れる。人の口に戸は立てられぬといった事だろう。貴族社会は他者からの評価が重要であり、悪い噂が立てば忽ち掌を返し波のように人がひいていく。人望がなくなれば、取り引きなども行えなくなり、仕事がなくなれば資産も失い最後には肩書きだけが残る。
虚しい世界だ。
「裏帳簿は見つかったが、飴以外の薬物は全く見つからないんだ。聴取を始めてはいるが全く口を割らなくてね」
購入していたのは貴族だが、商売をしているのはあくまでも平民でありそれも日陰者達だ。それに加え薬物の売人達は自らも服用している事が多い。更に減刑くらいの取引には応じない者も少なくない。
理由は多々あるが、仲間意識があり庇う者、貴族が嫌いな者、失うものがなく死んでもいいと思っている者など様々だ。
「地下にあった倉庫からは日用品しか見つからなくて、一応調べてはみたがどれもなんの変哲もない物ばかりでね。孤児院内も家探しして庭や周囲なども一通り掘り起こしてはみたが、何も出てこなかったよ。また明日以降も捜索は続けるが、正直見つかるかどうか」
「そうですか……」
帳簿には飴ではない薬物を示す記述があるそうだが、現物が見つからないのはまずい。
アジトは確かに孤児院ではあったが、隠し場所は別にあったのか。そうなると探し出すのはもう無理だろう。検挙された時点で回収されている筈だ。
だが取り引きは孤児院で行われていた。別の場所に保管して受け渡すにもリスクが大きい。
頭をしぼるが、話だけではやはり限界がある。
ルヴェリエ帝国延いては東大陸に精通していないので余計だろう。
「ああそうだ」
「どうかなさいましたか?」
考え込んでいると、唐突にセドリックが何かを思い出した様子で声を上げた。
「明日、僕の忘れ物を届けて欲しいんだ」
意外な頼み事に、エヴェリーナは思わず目を丸くした。
「そうだな……。明日、この書類を忘れていく予定だから頼んだよ。僕は郊外の孤児院にいるから」
(そういう事ですね)
セドリックの回りくどい言い回しに内心苦笑しつつも、エヴェリーナは快諾をした。