出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

六十二話〜密談〜



 その日の夜、エヴェリーナは皆が寝静まった頃を見計らい部屋を抜け出した。
 向かった先はニコラの部屋だ。

「失礼致します」

 周囲を警戒しながら、部屋の中へと身体を滑り込ませ扉を閉めると息を吐いた。

「こんな時間にごめん。でも、誰かに聞かれたら困るから」

 あの時ニコラから詳しい事を話したいから夜に部屋に来て欲しいと言われ、約束通りやって来た。

 椅子に座るように促されたエヴェリーナは、ニコラの正面の椅子に座った。

「では、ニコラ様。早速ですがお話をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「うん。実は数年前にーー」


 コルベール家は昔、今とは違いそれなりに裕福だった。
 だが数年前にコルベール家の所有する銀鉱山が枯渇した事で生活が変わっていったという。
 ただ話によればコルベール家は領地も所有しており、農地なども盛んでその税収もある。鉱山の収益が無くなったからといって困窮する程にはならない筈だ。だがーー
 
「昔から父様達は姉さんを溺愛していたから……」

 コルベール夫妻と双子の兄であるユージーンはビアンカを溺愛しており、昔から彼女が望めばどんな物でも買い与えていたそうだ。
 それは銀鉱山が枯渇してからも変わる事はなかった。
 ドレスは毎月数着は必ず新調し、それに合わせた装飾品のアクセサリーや帽子、靴なども新調をする。
 また飲食に関しても、拘りが強く気に入った高級品しか口にしない。
 その他にも、ほぼ使用しない別荘を何個も購入したり、時には賭博にお金を費やしたりとやりたい放題だった。

 そうしている内に、収入が減ったコルベール家は徐々にお金に困るようになっていき、屋敷にあった高価な調度品を売り払い、食事の質を下げ、沢山いた使用人達は必要最低限を残し暇を出した。
 その様子を目の当たりにしたニコラは怖くなり、何度も両親や兄にこれ以上ビアンカの為に浪費しないで欲しいと嘆願したが聞く耳を持っては貰えなかったそうだ。
 そんな中でも、ビアンカだけは何も変わる事なくこれまで通りの生活を送っていた。

 溺愛しているのは理解したが、ここまでくると異常としか思えない。

「それと最近、姉さん色々あって、以前にも増して手が付けられなくて……」
 
 言い辛いのか口籠るニコラに、エヴェリーナは察する。
 ジョセフとの事だろう。
 真相は当事者同士にしか分からないが、彼女の言動からして不本意だった事は明らかだ。
 彼女の思い描いていた未来とは違い、到底受け入れられないのだろう。
 ビアンカがセドリック自身が好きなのか将又皇子であるセドリックが好きなのかは分からないが、彼以外の男性に貞操を奪われてしまった事へのショックは計り知れないと思われる。
 やはり女性ならば、好きな人に捧げたいと思うのが普通だ。それに彼女の夢見ていた皇子妃になるのはかなり厳しいだろう。

 ただ彼女の場合、自業自得であり同情は出来ない。命があるだけ感謝するべきだ。

「現状は分かりました。ただコルベール家の再興するには、先ずは財務状況を把握する必要があります」

「うん、そうだよね」

 真剣に頷くニコラを見て、エヴェリーナは少し罪悪感を抱く。
 彼の協力を得られれば、コルベール家の内情を調べ易くなる。その一方でまだ子供の彼を利用しているようで気が引けた。

「でも、ボクは勝手に執務室には入れないから……」

「そうなるとやはり、夜中に忍び込むしかないですね」

「……いや、待って。そうだ、昨日父様が領土に行くかも知れないって話してた」

「ではニコラ様も……」

「ううん、ボクは当日体調が悪いと言って屋敷に残る」

 その数日後ーー

 ニコラが話していた通りコルベール夫妻達は領地へと出立をした。そして予定通り仮病を使いニコラは屋敷に残った。

 未だギュフロワ家との問題は解決していないが、娘が情緒不安定な事を理由に夫妻は療養の名目で急遽領地に行くそうだ。
 恐らく社交界でも噂が広がっている為、周りの目から逃れる為だろう。
 普通に考えれば被害者側なのだから堂々としていればいいと思うが、如何せんこれまでのビアンカの振る舞いが仇となっていると思われる。

「どうしよう」

 ニコラは、庭から執務室の窓を見上げるとそう呟いた。
 コルベール夫妻達が領地へ行っている間に執務室などを調べる筈だったが、予定外の事が起きた。
 まさかのユージーンが領土へ行かずに屋敷に残ったのだ。更に不在の侯爵の代わりに、彼が執務室を使用している。

 やはりそう簡単にはいかないと、エヴェリーナは苦笑した。
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