出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

六十七話〜覚悟〜




 昨日の夕刻に、フーゲルト・コルベールが帰還した。
 彼は双子の兄妹とニコラの父親であり、コルベール家の家長だ。
 
 夕食の配膳の手伝いをした際にフーゲルトと顔を合わせたが、彼はエヴェリーナが想像していた人物とは違った。
 もっと傲慢で隙もなく極悪な人物かと思っていたが、精々陳腐な偽善者といった所だろう。

 そんなフーゲルとユージーンは、食事中延々とビアンカの話をしていた。
 ビアンカが領地でどのように過ごしているか、ビアンカを慰める為に新しい宝石を購入した事、また彼女の為にドレスを新調しようと考えていると話していた。
 そんな中で、オマケ程度に教会や孤児院へと寄付金をする話をしていたが、恐らく善意ではなく体裁の為だろう。
 ローエンシュタイン帝国の貴族達も、体裁の為に慈善活動をしている者達が多かったので別段珍しい話ではない。

 食事後にワインを飲みながら、二人は例の話を始めた。

『父上、ギョフロワ家とは……』

『ビアンカは、ジョセフとの結婚は望んでいない。だがギョフロワ家からは、責任を取ると書簡が届いている』

『どうするおつもりですか?』

『正直、決め兼ねているんだ。ジョセフがビアンカに手を出した事は、社交界に知れ渡っている。幾らコルベール家の娘といえ、このままでは嫁ぎ先が見つかるかどうか分からない』

『嘆かわしい……本来ならば皇子妃になれる筈だったのに……。ビアンカが可哀想でなりません』

『それは分かっている。本当に不憫でならない。ただ今回の一件で、ビアンカの評判が著しく下がっている。もしジョセフと結婚しないとなると、コルベール家の体裁もーー』

 娘の為に罪を犯している割には、体裁を気にしているフーゲルを見て呆れる他なかった。絵に描いたような小物だ、情けない。
 

「リナ?」

 ニコラの声にエヴェリーナは我に返った。
 今日はこれからコルベール家の家宅捜索が行われる。
 その前に、ニコルの気持ちを落ち着かせようとお茶を淹れた所だった。

「如何なさいましたか?」

「ボク、大丈夫かな……」

「第二皇子殿下は優秀と聞き及んでおります。ですから、何も心配なさる必要はないと思いますよ」

「家宅捜索もだけど、その後の事……。ボク、ちゃんとコルベール家を再興出来るかな」

「もっと自信をお持ち下さい。ニコラ様でしたら、きっと大丈夫です。今回のご決断、大変立派でした」

「そうだよね。ボク、間違ってないよね」

「コルベール家の為にした懸命な判断です。ニコル様は間違ってなどおりません」

 やはり家族を裏切る事に罪悪感を抱いているらしく、ニコラは自らに言い聞かせるように呟いた。
 覚悟をしていると言っていたが、まだ十二歳の子供だ、致し方がない。

「不思議だ。リナに言われると、本当に大丈夫だって思える。これからも、力を貸してくれる?」

「ニコラ様、私はーー」

 エヴェリーナが答えようとした時、外が騒がしい事に気付いた。
 どうやら、セドリック達が到着したようだ。
 壁時計を見れば、予定より少し早い。
 窓の外を確認すれば、騎士達が次々と屋敷の中へと入って行く姿が見えた。

「予定より少し早いですが、どうやら動き出したようです。殿下からの指示通り、ニコラ様は執務室へ向かわれて下さい」

「……リナは、一緒に来てくれないの?」

 不安気にこちらへ視線を向けてくるニコラに、エヴェリーナは眉根を寄せながら首を横に降った。

「私は、一介の侍女に過ぎません。これから先は、第二皇子殿下がきっとお力になって下さる筈です」

「でも……」

「ニコラ様、お聞きください。コルベール家の行く末は、ニコラ様次第です。コルベール侯爵家には、私のような使用人達も領地には多くの領民達がおります。そのような者達が憂いなく安心して暮らせるにはどうすべきかをお考え下さい。それが権力を有する者の責務です」

 拳を握り締め唇をキツく結ぶと、彼はエヴェリーナを真っ直ぐに見据えた。

「分かった。ボク、頑張る」

 先程まで不安気にしていた事が嘘のようだ。ニコラの顔からは不安や迷いは消えていた。その姿に内心安堵のため息を吐く。
 
 
 部屋から出て行くニコラの姿を見届けると、エヴェリーナも屋敷を出る準備を始めた。

 本当は昨夜、屋敷を去るつもりだった。だが、ニコラが不安そうにしているので心配になり結局当日まで残る事にした。
 なのでセドリック達が到着する前には屋敷を出ようと考えていたが、予定外に早く到着してしまった。面倒事になる前に、早々に立ち去らなくてはならない。

 エヴェリーナは、先程ニコラにお茶を淹れた時に使用した茶器をトレーに載せ手にすると部屋から出る。
 屋敷の中は恐らく捜索が始まっていて、騎士達がそこかしこにいる筈だ。 
 怪しまれないようにこの茶器を持って厨房へ向かい、裏口から出るしかない。

「ーー‼︎」

「おっと」

 極力人の目に触れないようにと考えていたがーー
 扉を開け廊下に出ると、目の前にはザッカリーが立っていた。
 
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