俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ
 夜、瞳の部屋。母はまだ帰ってきていない。
 スマホの画面を開き、昼間もらったパンフに書かれていた応募フォームを表示した。

 ――本気でやろうなんて思っていない。
 ――けど、せっかく渡されたし。冷やかすくらい、いいよね。

 画面には、名前・年齢・性別・趣味特技……と無機質な入力欄が並んでいる。

「……名前は、“藍原ヒトミ”。漢字だと女っぽいし、カタカナで」

 年齢は16歳。性別の欄で、指が止まった。

 ――女、って押すのも違うし。
 ――男子枠でスカウトされたんだし……。

 数秒迷ってから、「男性」をタップする。

 趣味・特技の欄には、スケボーとリズムゲーム。
 自己PRは、頭に浮かんだ言葉をそのまま打ち込んだ。

 “負けず嫌いで、やると決めたことはやり切るタイプです。人前で歌ったことはないけど、歌うことが好きです”

 ――……真面目すぎ? まあいいか。

 最後に写真。友人が撮ったスナップをフォルダから選ぶ。パーカーにスニーカー、短髪の自分。画面に映るのは、どう見ても“王子様系”男子だった。

 送信ボタンを押すと、すぐに「応募完了」の文字が表示された。
 スマホを机に放り出し、ベッドに寝転がる。

 ――どうせ落ちるし。
 ――それでも……ちょっとくらい、ワクワクしてもいいかな。

 翌日。学校から帰ると、スマホに一通のメールが届いていた。

 《一次審査(書類選考)通過のお知らせ》
< 2 / 25 >

この作品をシェア

pagetop