皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました

第5章 禁断の夜

その日の夜。私は侍女として夜中の見回りに回っていた。

静まり返った回廊を歩いていると、ふと、一室にかすかな灯りが漏れているのに気づく。

――皇太子殿下の部屋だ。

「セド……まだ起きているの?」

思わず立ち止まり、そっと扉の隙間を覗く。

そこには、寝台の上で寝返りを打つセドの姿があった。

胸が締めつけられる。こんな時間まで眠れないなんて……やはり、婚約破棄のことが彼を苛んでいるのだろうか。

(いけない……こんなところを覗き見るなんて。)

罪悪感に頬が熱くなる。立ち去ろうとしたその時――。

「誰だ?」

鋭い声に、体が跳ねた。

まさか、見つかってしまった……!

仕方なく扉を開けると、薄暗い室内でセドが身を起こしていた。

驚きと疑念の混ざる瞳が、まっすぐに私を射抜く。

「殿下……私です。エリナです。」

息を呑むほど静かな夜に、鼓動の音だけが大きく響いた。
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