皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「殿下、眠れないのですか。」

恐る恐る問いかけると、セドは伏せた目をゆっくりと上げた。

「……そうだな。最近は特に。」

かすかな吐息と共に返された声は、疲れているはずなのにどこか張り詰めていて、胸が締め付けられる。

「やはり、婚約のことが……」

言いかけると、セドはかすかに首を振った。

「それだけじゃない。クラリッサのことも、次の縁談も……考え出すと、眠れなくなる。」

強く見えるのに、誰よりも心を砕いてしまう人。

そんな彼の素顔に触れて、思わずベッドの傍に膝をついた。

「殿下。」

手を伸ばして、震える彼の指先に自分の手を重ねる。

「どうか、少しでもお休みください。私が……側におりますから。」

セドが驚いたようにこちらを見た。

その視線に、鼓動が早まる。けれど逃げずに微笑んだ。

夜の静寂に包まれながら、私はただ彼の心に寄り添おうと誓った。
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