「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
大正三年。
珠子たちは家族で東京上野公園に来ていた。
「お父様、お母様。
見て、あの大噴水っ」
珠子と晃太郎の子、九歳になる千代子が弟の手を引き、はしゃぐ。
「あんまり遠くに行かないのよ」
珠子は慌てて千代子に呼びかけた。
身重なので走れない。
不忍池を渡るケーブルカー。
噴き上げる巨大な噴水。
「すごいですわね」
訪れているたくさんの人とともに珠子はそれを見上げる。
第一会場と第二会場をつないでいるのは日本初のエスカレーターだ。
「……なんだか懐かしいです」
子どもたちにせがまれて来た東京大正勧業博覧会だが、珠子は、まだ池田の囲われ者だったころ、晃太郎と行った大阪の博覧会を思い出していた。
……まあ、もちろん、その間にあった幾つもの博覧会にも、もれなく池田たちと行っているのだが。