「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 



 大正三年。

 珠子たちは家族で東京上野公園に来ていた。

「お父様、お母様。
 見て、あの大噴水っ」

 珠子と晃太郎の子、九歳になる千代子が弟の手を引き、はしゃぐ。

「あんまり遠くに行かないのよ」

 珠子は慌てて千代子に呼びかけた。
 身重なので走れない。

 不忍池を渡るケーブルカー。
 噴き上げる巨大な噴水。

「すごいですわね」

 訪れているたくさんの人とともに珠子はそれを見上げる。

 第一会場と第二会場をつないでいるのは日本初のエスカレーターだ。

「……なんだか懐かしいです」

 子どもたちにせがまれて来た東京大正勧業博覧会だが、珠子は、まだ池田の囲われ者だったころ、晃太郎と行った大阪の博覧会を思い出していた。

 ……まあ、もちろん、その間にあった幾つもの博覧会にも、もれなく池田たちと行っているのだが。
< 240 / 256 >

この作品をシェア

pagetop