「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
曇っていた空が少し晴れはじめていた。
洞穴のようなうをのぞきから出た珠子は、明るい日差しに照らされ、ちょっとうきうきした気分になった。
「何処から見ましょうか?
岩崎様は何処がいいですか?」
と振り向くと、
「……晃太郎」
と晃太郎は言う。
「晃太郎と呼んでくれないか」
ちょっと視線をそらしながら、晃太郎はそう言った。
「俺がお前を珠子と呼ぶのに、お前が俺を苗字で呼ぶのはおかしいだろう」
「あ、そ、そうですね」
と照れながらも、珠子は思っていた。
……それは私の苗字を知らないからでは。
晃太郎は珠子の苗字を池田から聞いていないようだった。
いや、そもそも池田の子息も囲われ者の苗字など、いちいち知らないのではなかろうか。