「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」


「申し訳ございません。
 岩崎様は、お友だちの池田様のお妾さんをご案内されていたのですね」

 はあ……。

 三人は上野公園ほとりの上野精養軒に食事に来ていた。 

「晃太郎様の愛を疑ってしまい、申し訳ございません」
と赤いワンピースを着た彼女は晃太郎を見上げる。

 三人は丸いテーブルに、晃太郎を挟んで座っていた。

「いや、あの、あなたはどなたなんですか?」

 晃太郎が彼女に訊く。

 岩崎家の話に口を挟むべきではないな、と思った珠子は、静かにお気に入りのビーフシチューが来るのを待っていた。

 ここの十日間かけて煮込んでいるというドミグラスソースが大好きなのだが。

 家族がいなくなってからは来ていなかった。

 なので、珠子はただそのビーフシチューを待っていた。
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