「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 正座している膝の上に置いている両のこぶしにやけに力が入っている。

 高平は少し身を乗り出し、自分ではなく、池田に訊いた。

「その娘の名は――?」

 珠子の名前を今まで出したことがなかっただろうか?

 いや、あったとしても、よくある名だし、と思ったとき、
「三条珠子だよ」
と池田が言った。

「三条!?」

 高平と二人、叫んでいた。

 そういえば、自分も珠子の苗字を知らなかった。

 ただの珠子だと。

 それだけで別に不自由なかったし。

 自分にとっては、ただの珠子だから。

 他に代わりのいない珠子だから――。
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