「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「はい。
 もうどうにも首が回らなくなって逃げました。

 母は、この人ひとりにしておいたら、なにをするかわからないと言って、ついて行きました。

 私は父がたまにある羽振りのいいときに買っていたこの古書店にひとり残りました。

 ここには、父が商売にいるかもしれんと莫迦なことを言って買った電話もあったので」

 いつか家族の誰かからかかってくるかもしれない『八』の電話番号を珠子は高い金を払って維持していたのだ。

「兄が外務省にいるというのは、女学校にいるとき、ひとづてに聞いていました。

 晃太郎様が外務省にお勤めだと知って、あら、とは思ったのですが。

 まさか、ご友人だったとは……」
と珠子は苦笑いする。

「兄は会いには来ないでしょう。
 そのように高平の家に言われていると思うので」

「高平は三条家が夜逃げしたと聞いて、お前も父親と一緒に逃げたのだと思っていたらしいぞ」

 いやあ、と珠子は笑う。
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