ちびっこ息子と俺様社長パパは最愛ママを手放さない
 ちょっとしたことで胸がきゅんと鳴く。プライベートで会えた偶然もすごく嬉しいし、正直このままふたりで飲み明かしたい。
 けれど、この気持ちは押し殺さなくては。抱いてはいけないのだ、副社長が好きだという想いなどは──。
 きゅっと唇を結び、シャーベットが溶けたカクテルをぐいっと飲んで腰を上げる。ほろ酔い状態なのを隠し、きりっとした顔を作って頭を下げる。

「醜態をお見せして失礼いたしました。私はこれにて退散しますので、どうぞごゆっくり」
「おい、なんで逃げる」

 財布を取り出そうとした私の手を、骨張った大きな手が掴んだ。滅多にない触れ合いに、心臓が飛び跳ねる。
 固まって目を見開く私を、獲物を逃すまいとするような力強い瞳が捉える。ご、ご尊顔が近い……!

「君はいつもそうだ。仕事を終えると逃げるように去ってしまうし、日頃の労をねぎらって食事に誘ってもいつも用事で埋まっている。そして今も。べらぼうに忙しいか、俺を避けているとしか思えない」
「そそそそれは……」

 思いっきり動揺してしまう私。
 避けているのは本当だ。ふたりきりでいたらこの恋心がどんどん膨らんでしまうだけだと、極力仕事以外では関わらないようにしているから。

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