第一作★血文字の残響★
 プロローグ

 その夜、村は深い霧に包まれていた。
 誰も近づかなくなった神谷家の廃屋。
 軋む扉を押し開けると、湿った土と古い木材の臭いが鼻を突いた。

 懐中電灯の光が壁をなぞったとき、それは現れた。

 ――赤黒い文字。

 「ゆるして」「ごめんなさい」「たすけて」

 滲むように浮かんだ血の跡は、二十年前のまま時間を止めていたはずだった。
 だが、乾いていない。まだ生々しい。

 誰が、なぜ今も書き続けているのか。
 その問いが、やがて過去と現在を結び、さらなる闇を呼び覚ますことになる。


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 登場人物

 ◆ 相沢 真一(あいざわ しんいち)・38歳

 主人公。地方紙の記者。

 かつて神谷家失踪事件を新人時代に取材した経験がある。

 正義感はあるが、過去の取材で何かを見落とした負い目を抱える。

 今回の「血文字再出現」で再び村へ足を踏み入れる。


 ◆ 神谷 結衣(かみや ゆい)・享年10歳

 二十年前に失踪した少女。

 両親と共に行方不明になったが、血文字に「ゆるして」と書き残したのは彼女だと噂される。

 村では「いまも夜に泣き声が聞こえる」と語られている。


 ◆ 神谷 浩二(かみや こうじ)・当時45歳

 結衣の父。事件の夜に一家ごと姿を消した。

 村の地主であり、地元では権力を持っていたが、同時に多くの恨みも買っていた。


 ◆ 駐在・山根 健吾(やまね けんご)・60代

 事件当時の駐在。

 現在は退職して村で隠居生活を送る。

 相沢の取材を頑なに拒む。

 事件隠蔽に関わった可能性がある。


 ◆ 佐伯 美沙(さえき みさ)・29歳

 相沢の後輩記者。

 好奇心旺盛で行動力があるが、空気を読まない一面も。

 血文字を「怪異」として扱おうとし、相沢を翻弄する。


 ◆ 老婆・村井 ハツ(むらい はつ)・80代

 村の古老。

 神谷家の血筋や、村の因習を知る唯一の証人。

 「血文字は呪いの告白だ」と相沢に警告する。


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